バックパックに防寒着と水、食料を詰め込み
暗く長い道を冷たい風を浴びながら、駐車場へ向かった。
駐車場は、すでにたくさんの車が停まっていた。
シャトルバスに乗り込み登山口の5合目を目指す。
車内は登山をする期待と不安が混じった空気で、最初は賑やかだった。
30分もすると車内は、遠足帰りのバスのようになり静かになり
バスは暗い山道を走り続けた。
5合目に着くと、登山用の杖を購入しヘッドライトに灯りを入れた。
不思議と富士山を登るんだという実感が無かった。
スムーズに落ち着いた気持ちで登山が始まった。
真っ暗な富士山は、まるでクリスマスツリーみたいだった。
歩く人々のヘッドライトで光の道筋が出来ていた。
すでに空気は薄く、少しでもペースを早めると高山病になりそうだった。
深呼吸を何度も繰り返し、水をこまめにとった。
周りのペースに惑わされず、自分のペースを守る。
まるで今、自分に大切なものを学んでいるようだった。
小説「モモ」に出てくる「灰色の男達」が、自分の後ろをついて歩き、
「もっと早く。もっとペースを上げて。一番速く登るんだ」っと言っているようだった。
その声を振り払うように、登り続けた。
ときに、本当に頭を横に振り「自分のペースを守るんだ」っと言い聞かせた。
ただし、頭を横に振ったのでクラクラしてしまった。
無心に登るため、何か心の中で唱えながら登ろうと思った。
お経を唱えながら登ったら、周りの暗さと富士山の迫力に圧倒されて
すぐに止めた。
いくらなんでも、怖すぎた。
以前、須藤元気さんがお遍路の旅をした本を読んだ。
そこには、「ありがとう」を言い続けていた。
それだ!
でも、同じだとつまらないなぁ。っと天の邪鬼が出てきて、
「ごめんなさい」「許してください」「愛しています」「ありがとう」
を唱え続けることにした。
すると、ペースが元に戻り呼吸も深くなった。
もう瞑想のような感覚だった。
サーフィンで波待ちをしている感覚にも似ていた。
9合目まで来ると、さすがに疲れていた。
周りでは、寝ている人や酸素を吸入している人で混雑していた。
山小屋のお兄さんがきて、なぜか小声で「泊まれるよ」とつぶやいていった。
頂上まで残りの力を振り絞り、登った。
心でつぶやいていた おまじないはいつの間にか、
「ごめんなさい」「ゆるしてください」「愛してください」
に変わっていた。
これが、本当の気持ちなのか?っと自問しながら、間違ったおまじないと正した。
そして頂上に着いた。
日本一の景色だった。
雲海や森は低く、空が果てしない。
太陽は、神々しく人を照らした。
すべてが癒され、心の底からパワーが出てきた。
帰りは、滑りながら何とか帰り着いた。
明るいと先も見え、地上が近づかないように感じる。
少し挫けそうになる。
帰り着いた、温泉とご飯は特別でした。
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